「電子帳簿保存法という言葉は聞くけれど、結局うちは何をすればいいのか分からない」。中小法人の経理担当者や個人事業主の方から、こうした声をよく耳にします。法律の名前が難しく、要件の説明にも専門用語が多いため、義務なのか任意なのか、何から手を付けるべきかが見えにくいのでしょう。

そこでこの記事では、電子帳簿保存法の全体像を、3つの保存区分と「電子取引データ保存の義務」を軸にわかりやすく整理します。さらに、自社の電子取引をどう洗い出すか、費用をかけない方法と会計ソフト導入のどちらを選ぶかという「対応の進め方」を、損得の視点で見ていきましょう。個人事業主や小規模事業者向けの最小限の対応、よくある誤解の正し方、点検に使えるチェックリストまでまとめました。

電子帳簿保存法とは|データ保存を可能にする法律と3つの区分

電子帳簿保存法とは、税務に関わる帳簿や書類を、紙ではなくデータで保存することを認めるための法律です。 正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(平成10年法律第25号)で、一般に電帳法と略されます。まず押さえたい本質は、データ保存を「認める」ための法律だという点。ここがぶれると、要件の理解もぶれてしまいます。

この法律で定めるデータ保存の方法は、次の3つの区分に分かれます。区分ごとに義務か任意かが違うため、自社に関係するのはどれなのかを、まず見分けましょう。

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保存区分対象になるもの義務/任意
電子帳簿等保存自分が会計ソフト等で最初から電子的に作成した帳簿・決算書類任意
スキャナ保存紙で受け取った請求書・領収書などをスキャン・撮影して保存任意
電子取引データ保存メールやサイトなど、データでやり取りした請求書・領収書など原則として義務

この3つのうち、すべての事業者に関係し、対応が必要なのは「電子取引データ保存」です。 電子帳簿等保存とスキャナ保存は、取り入れるかどうかを事業者が自分の判断で選べる任意の制度で、やらなくても罰則はありません。一方、電子取引データ保存には、データでやり取りした取引情報をデータのまま残す義務があります。

「電子帳簿保存法に対応しなければ」と聞くと、帳簿を全部システム化しなければならないように感じがちです。けれども、まず必須なのは電子取引データ保存の一点だと理解すれば、対応の見通しはぐっと立てやすくなります。

参考:国税庁「電子帳簿保存法の概要」

電子取引データ保存は原則義務|2024年(令和6年)1月から

電子取引データ保存は、所得税・法人税の保存義務者にとって原則として義務であり、令和6年(2024年)1月1日以後に行う電子取引から適用されています。 当初は2022年1月開始の予定でしたが、準備期間として2023年12月末までの2年間の措置が設けられ、その終了とともに完全義務化となりました。法人・個人事業主を問わず、事業でデータの授受がある事業者が対象です。

義務の中身はシンプルです。注文書・契約書・見積書・請求書・領収書・送り状などに通常記載される取引情報を、データ(電磁的記録)で受け取ったり送ったりした場合、そのデータをデータのまま保存しなければなりません。

電子取引にあたる主な例は、次のようなやり取りです。これらは「データで授受した」時点で対象になります。

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電子取引の例対象になる主なデータ
取引先とメールでやり取り添付の請求書・見積書PDF、本文に書かれた取引情報
ECサイト・通販で購入サイト上で発行・ダウンロードする領収書・購入明細
クレジットカードの利用明細Web上で取得する利用明細データ
交通系ICカード・電子マネーアプリやWebで取得する利用履歴・領収データ
請求書・経費精算のクラウドサービスサービス上で授受する請求書・領収書データ

注意したいのは、「紙に印刷して保存すればよい」という対応が、原則として認められない点です。 データで受け取ったものは、データのまま保存するのが原則になりました。ただし、要件どおりに保存できない場合に備えて、次の猶予措置も用意されています。

猶予措置とは、保存時に満たすべき要件に従って保存できなかったことについて、所轄の税務署長が「相当の理由」があると認め、かつ税務調査などの際にデータのダウンロードの求めや、書面(印刷したもの)の提示・提出の求めに応じられる場合に、要件に沿わない保存でも認められるという仕組みです。ここで誤解しやすいのが、猶予措置は「保存しなくてよい」という意味ではないこと。データ自体は残したうえで、検索などの細かな要件が緩和されるものと理解しておきましょう。

参考:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」

電子取引データ保存の要件は「真実性」と「可視性」の2つ

電子取引データ保存で満たすべき要件は、大きく2つに整理できます。「データが改ざんされていないこと(真実性の確保)」と、「必要なときにすぐ探して見られること(可視性の確保)」の2本柱です。 専門的に見えますが、要点をつかめば対応の難易度は下がります。

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要件の柱求められること実務での主な対応
真実性の確保データが後から改ざんされない・改ざんを防ぐ措置事務処理規程の整備、タイムスタンプ、訂正削除の履歴が残るシステム など
可視性の確保取引年月日・取引金額・取引先で検索でき、画面等で速やかに出力できるファイル名の命名規則、検索機能のあるシステム、ディスプレイ・プリンタの備え付け

真実性の確保(改ざんを防ぐ)

真実性の確保とは、受け取ったデータが後から書き換えられない、または書き換えを防げる状態にすることです。 いくつかある方法のうち、いずれかを満たせば足ります。

費用をかけずに対応する方法として広く案内されているのが、「正当な理由がない訂正・削除を禁止する事務処理規程」を定め、その規程に沿って運用するやり方。タイムスタンプの付与や、訂正・削除の履歴が残るシステムの利用でも要件は満たせますが、規程の整備であれば、社内ルールを文書化するだけで対応できます。

良い例は、データを保存するフォルダと運用ルールを決め、誰がいつ保存するかを規程で明確にしている状態です。逆に注意したいのが、各担当者がそれぞれのパソコンやメールに保存したまま、改ざん防止のルールが何もない状態。確認のしかたとしては、国税庁が事務処理規程のサンプル(ひな形)を公開しているので、これを自社の運用に合わせて整える方法があります。

可視性の確保(すぐ探して見られる)

可視性の確保で中心になるのは検索機能で、「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3項目で検索できるようにすることが基本です。 あわせて、ディスプレイやプリンタなどを備え、税務調査の際にデータを画面や書面で速やかに出せる状態にしておきましょう。

高価な専用システムがなくても、検索要件は工夫で満たせます。広く案内されているのが、ファイル名を「取引年月日_取引先名_取引金額」の形で統一する方法。たとえば「20260120_〇〇商事_55000」のように命名し、フォルダにまとめておけば、ファイル名の検索で必要なデータを探し出せます。

良い例は、命名規則を決めて全員が同じルールで保存している状態です。一方、ファイル名がバラバラで、後から特定の請求書を探し出せない状態は避けたいところ。

参考:国税庁「電子帳簿保存法関係」

電子帳簿保存法の対応方法|費用をかけない運用か会計ソフトか

電子取引データ保存への対応は、大きく「費用をかけない手作業の運用」と「会計ソフト・専用システムの活用」の2つに分かれ、自社の取引量で見極めるのが現実的です。 どちらでも要件は満たせるため、無理にシステムを入れる必要はありません。損得で比べて選びましょう。

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対応の選び方向いているケースメリット注意点
費用をかけない運用(ファイル名規則+事務処理規程)電子取引の件数が少ない個人事業主・小規模事業者追加コストがほぼかからない/すぐ始められる手作業のため件数が増えると手間とミスが増える
会計ソフト・専用システム取引件数が多い/複数人で処理する中小法人自動で検索要件を満たし、入力・保存の手間を減らせる月額などの費用がかかる/初期設定が必要

取引が月に数件程度なら、ファイル名の命名規則と事務処理規程の運用で十分に対応できます。 一方、請求書や領収書のデータが毎月多数発生し、複数の担当者が扱う場合はどうでしょう。このケースでは、会計ソフトや経費精算システムに任せたほうが、検索要件を自動で満たせて結果的に手間が減ります。

任意の制度との切り分けも意識したいポイントです。電子取引データ保存(義務)への対応をまず固め、紙の領収書を減らしたい場合に限ってスキャナ保存(任意)を検討する、という順番なら無理がありません。会計ソフトを選ぶ際は、電帳法の要件に対応していることの目安として、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証を受けたソフトかどうかが参考になります。ソフトごとの料金や機能は変わるため、最新は各社公式でご確認ください。

参考:国税庁「電子取引関係」

個人事業主・中小はどこから始めるか|最小限の進め方

個人事業主も電子取引データ保存の義務対象であり、まず自社の電子取引を洗い出すことから始めるのが、最小限で確実な進め方です。 「個人だから関係ない」ということはなく、事業でデータの授受が1件でもあれば対象になり得ます。だからこそ、何があるのかを把握するのが最初の一歩になります。

対応は、次のステップで進めると迷いません。

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ステップやることポイント
① 洗い出すメール添付・ECの領収書・カード明細など、データで授受している書類を書き出す紙のものは対象外。データのやり取りだけを拾う
② 保存方法を決めるファイル名規則+フォルダ保存にするか、会計ソフトを使うかを選ぶ件数が少なければ手作業の運用で十分
③ ルールを整える真実性の確保のため事務処理規程を用意し、保存場所と命名規則を決める国税庁のひな形を自社用に調整する
④ 運用する受け取ったデータを、決めたルールどおりに保存していく受領のたびに保存する習慣にすると溜まらない

小規模事業者には、検索要件が緩和される場合もあります。一般に、2課税年度(2年)前の売上高が一定額以下であるなど、規模が小さい事業者は、税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられることを前提に、検索要件への対応が不要になる場合があるとされています。 自社が緩和の対象になるかどうかは、適用される金額基準や条件が時点によって異なり得るため、最新の取り扱いを国税庁の資料や税理士に確認するのが確実でしょう。断定はせず、あくまで目安として押さえておきましょう。

参考:国税庁「電子帳簿保存法の概要」

電子帳簿保存法でよくある失敗と、その防ぎ方

電子帳簿保存法は誤解が多く、対応のつまずきも似たパターンに集まります。多くの失敗は制度の思い込みから生まれており、正しく理解すれば防げるものばかりです。 よくある誤解と、確認のしかたを整理しましょう。

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よくある誤解・失敗実際のところ防ぎ方・確認のしかた
紙の保存はすべて廃止された紙で受け取った書類を紙で保存することは引き続き可能。義務化されたのは「データで受け取ったものをデータで残す」こと自社の書類が紙かデータかで分けて考える
データで受け取った請求書を印刷して紙で保存したデータで受け取ったものは、原則データのまま保存する必要がある受領経路(メール・サイト等)を基準に保存方法を決める
対応には必ず専用システムが必要だと思ったファイル名規則+事務処理規程で対応できるまず手作業の運用で足りるかを試算する
スキャナ保存と電子取引保存を混同したスキャナ保存は紙を電子化する任意の制度、電子取引保存はデータ授受の義務「紙を電子化」か「最初からデータ」かで区別する
何もしなくても罰則はないと考えた要件に従わない保存は、青色申告の承認取消しの対象になり得るまず洗い出しと最低限の保存ルールを整える

とくに多いのが「紙保存の廃止」という思い込みと、「全部システムが必要」という思い込みの2つです。 紙で受け取ったものは紙のままでよく、対応が必須なのはデータで授受した取引だけ。こう切り分けると、負担感は大きく下がります。

対応しなかった場合のリスクも、制度として知っておきましょう。要件に従ってデータを保存していない場合は、青色申告の承認取消しの対象となり得るとされています。また、電子取引やスキャナ保存に関して隠ぺい・改ざんなどの不正があった場合は、重加算税が10%加重される取り扱いもあります。これらはあくまで制度上の取り扱いで、実際の判断は個別事情によるため、不安があれば税理士に相談すると安心です。

なお、要件の高い「優良な電子帳簿」として届出をして保存した場合には、過少申告加算税の軽減や、所得税の青色申告特別控除における優遇など、有利な取り扱いを受けられる仕組みもあります。具体的な要件や優遇の内容は時点によって変わり得るため、活用を検討する場合は国税庁の資料で確認してください。

参考:国税庁「電子帳簿保存法関係」

【チェックリスト】電子帳簿保存法の対応を点検する

ここまでの内容は、自社の対応状況の点検にそのまま使えます。「電子取引の洗い出し」「真実性の確保」「可視性(検索要件)」「規程・運用」の4領域で確かめると、抜け漏れを防げます。

まずは、領域ごとに見るポイントを整理します。

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領域見るポイント
洗い出しデータで授受している書類を把握できているか
真実性改ざんを防ぐ措置(規程・タイムスタンプ等)があるか
可視性取引年月日・金額・取引先で検索でき、すぐ出力できるか
規程・運用ルールが文書化され、実際に運用が回っているか

続いて、次の項目を自社の状況に当てはめて点検してみてください。

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領域チェック項目確認
洗い出しメール添付・ECの領収書・カード明細など、電子取引を書き出したか
洗い出しデータで受け取ったものを紙だけで保存していないか
真実性事務処理規程の整備か、タイムスタンプ等の措置を用意したか
真実性保存後にデータを勝手に書き換えない運用になっているか
可視性取引年月日・取引金額・取引先で検索できる状態か
可視性ファイル名の命名規則など、検索のしかたを決めたか
可視性ディスプレイ・プリンタで速やかに画面・書面に出せるか
規程・運用保存場所と担当・手順を決め、文書化したか
規程・運用受領のたびに保存する運用が習慣化しているか
規程・運用自社が検索要件の緩和対象か、最新の取り扱いを確認したか

点検した内容は、税理士や国税庁の資料で実際に確かめると、より確実になります。 とくに緩和措置の適用や、自社に合う対応方法の判断は、専門家に相談すると判断材料が増えるでしょう。

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まとめ

電子帳簿保存法は、税務に関わる帳簿・書類のデータ保存を認める法律で、保存方法は「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3区分に分かれます。このうち、すべての事業者に関係し対応が必須なのは電子取引データ保存で、令和6年(2024年)1月から原則義務になりました。要件は「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つ。ファイル名の命名規則と事務処理規程を使えば、費用をかけずに満たすこともできます。まずは自社の電子取引を洗い出し、件数に応じて手作業の運用か会計ソフトかを選ぶのが、無理のない進め方と言えます。

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