「自分は消費税を納める課税事業者なのか、それとも免税事業者のままでいいのか」。個人事業主や中小法人にとって、この判断は手元に残るお金や事務負担に直結します。インボイス制度が始まってからは、免税事業者のまま続けるか、あえて課税事業者になるかで迷う方も増えました。

この記事では、課税事業者とは何かを免税事業者との違いから整理し、課税事業者になる条件、インボイス登録との関係、納税負担を抑える2割特例・簡易課税、届出と手続き、そして課税と免税どちらが有利かの判断ポイントまでをまとめていきます。制度の説明だけでなく、自分がどの立場かを見極めるためのチェックリストも用意しました。BtoB・BtoCの違いも踏まえた、損をしない選び方が分かる内容です。

課税事業者とは「消費税を納める義務がある事業者」のこと

課税事業者とは消費税の納税義務がある事業者、免税事業者とは納税義務が免除されている事業者をいいます。 同じように事業をしていても、一定の基準を満たすかどうかで、消費税を国に納める立場か、納めなくてよい立場かが分かれるのです。

両者の違いを整理すると、次のようになります。

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比べる点課税事業者免税事業者
消費税の納税義務あり(申告・納付が必要)なし(原則として免除される)
主な対象基準期間の課税売上高が1,000万円超など基準期間の課税売上高が1,000万円以下の小規模事業者
申告の手間消費税の確定申告が必要消費税の申告は不要
インボイス(適格請求書)登録すれば発行できる登録できない(登録すると課税事業者になる)

ここで押さえたいのは、課税事業者か免税事業者かは「自分で選ぶ」ものではないという点です。原則として売上などの基準で自動的に決まり、基準を満たせば届け出をしていなくても課税事業者になります。 一方で、本来は免税事業者でも、あえて課税事業者を選ぶこともできます。どちらが有利かは事業の中身によって変わるもの。まずは自分がどちらに当てはまるかを正しく見極めましょう。

なお、インボイス制度そのものの全体像や適格請求書の書き方といった詳細には、本記事では深入りしません。ここでは課税事業者か免税事業者かの判定に集中します。

参考:国税庁「No.6501 納税義務の免除」

課税事業者になる条件は「基準期間・特定期間・インボイス登録」の3つ

課税事業者になるかどうかは、次の3つのいずれかに当てはまるかで決まります。1つでも当てはまれば、その課税期間は消費税を納める立場になります。

  • 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている
  • 特定期間の課税売上高(または給与等支払額)が1,000万円を超えている
  • インボイス発行事業者として登録した

① 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるか

最も基本になるのが、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えているかどうかです。 1,000万円以下であれば、原則として消費税の納税義務は免除されます。

ここでいう基準期間とは、判定する課税期間の2年前にあたる期間のこと。個人事業主と法人で、次のように対象が違います。

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区分基準期間
個人事業主前々年(判定する年の2年前の1月1日〜12月31日)
法人前々事業年度

たとえば個人事業主が今年課税事業者かどうかは、2年前の課税売上高で判定します。今年の売上が伸びても、基準はあくまで2年前の売上であるという点が見落としやすいポイントです。 2年前に1,000万円を超えていれば、今年の売上が少なくても課税事業者になります。

② 特定期間の課税売上高が1,000万円を超えるか

基準期間が1,000万円以下でも、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になります。 急成長した事業者が2年遅れでしか課税にならない状態を、調整するための仕組みです。

特定期間とは、個人事業主は前年の1月1日から6月30日まで、法人は原則として前事業年度開始日以後6か月の期間を指します。この特定期間の判定は、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額で行うこともできます。 つまり、課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額が1,000万円以下であれば、その基準で免税と判定できる場合があるのです。

良い例は、特定期間の課税売上高と給与等支払額の両方を確認し、有利なほうで判定している事業者でしょう。注意したいのは、基準期間だけを見て「2年前が1,000万円以下だから今年も免税」と思い込み、特定期間の超過を見落とすケースです。前年上半期の売上と、その期間に支払った給与・賞与の合計を並べて、どちらも1,000万円を超えていないかを点検しておくと安心です。

③ インボイス発行事業者として登録したか

売上の基準を満たしていなくても、インボイス発行事業者として登録すると、その時点で課税事業者になります。 適格請求書(インボイス)を発行できるのは課税事業者に限られるため、免税事業者が登録すると、自動的に消費税の納税義務が生じるからです。

この3つ目の条件は、自分の意思で選ぶ点が①②と大きく違います。取引先がインボイスを必要とするかどうかで、あえて課税事業者になる判断が出てくるため、損得をよく考えて決めましょう。

参考:国税庁「No.6501 納税義務の免除」

インボイス登録と課税事業者の関係は「登録すると課税になる」

インボイス制度との関係でいちばん大切なのは、免税事業者がインボイス発行事業者として登録すると課税事業者になる、という点です。 登録は任意ですが、登録した以上は消費税の申告・納付が必要になります。

なぜ登録を検討する事業者がいるのでしょうか。理由は、取引先(買い手)の仕入税額控除に関わるからです。買い手が消費税の計算で仕入税額控除を受けるには、原則として売り手が発行するインボイスが必要になります。売り手が免税事業者のままだとインボイスを発行できないため、買い手は仕入税額控除を受けにくくなり、取引を見直される可能性が出てくるのです。

ここで判断が分かれるのは、取引先の性質によって影響が大きく違うからです。

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取引の相手インボイスを出さない場合の影響
課税事業者の企業(BtoB)相手の仕入税額控除に影響し、取引や価格を見直される可能性がある
一般消費者(BtoC)消費者は仕入税額控除を行わないため、影響は小さいことが多い
免税事業者・簡易課税の相手相手がインボイスを必要としないため、影響は限定的なことが多い

取引先の多くが課税事業者の企業であればインボイス登録の必要性は高く、相手が一般消費者中心ならその必要性は下がりやすいと言えます。 自分の売上の相手が誰なのかを書き出してから登録を考えると、判断しやすくなるでしょう。

参考:国税庁「No.6501 納税義務の免除」

納税負担を抑える制度は「2割特例」と「簡易課税」

課税事業者になると消費税の納税が必要ですが、負担や手間を抑える制度も用意されています。代表的なのが2割特例と簡易課税。要件や使える期間が違うため、自分が使えるものを正しく選ぶことが大切です。

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制度概要
2割特例免税からインボイスで課税になった人向けの期間限定の負担軽減措置
簡易課税基準期間の課税売上高5,000万円以下で使える、計算を簡素化する制度
原則課税(一般課税)実額で仕入税額控除を計算する基本の方法

2割特例の概要と使える期間

2割特例とは、免税事業者がインボイス発行事業者として課税事業者になった場合に、納付税額を売上に係る消費税額の2割にできる負担軽減措置です。 売上に係る消費税額の8割を控除できるため、実質的な納税は売上消費税の2割で済みます。

対象は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下である小規模事業者のうち、免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった人です。この特例は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間に適用できます。 適用にあたって事前の届出は不要で、確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を記載すれば適用でき、仕入れに係る実額計算もいりません。

良い例は、要件を確認したうえで、原則課税と2割特例の納税額を比べて有利なほうを選んでいる事業者でしょう。注意したいのは、適用期間が令和8年9月30日までである点を意識せず、終了後の計算方法を決めていないケースです。2割特例の適用期間が終わったあと、個人事業者は令和9年分・令和10年分に納付税額を売上税額の3割にできる経過措置(3割特例)の対象となる場合があります。 3割特例の対象外となる場合や法人の場合は、簡易課税または原則課税への移行を検討することになるため、終了時点を見据えた検討が欠かせません。

簡易課税の概要とみなし仕入率

簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間に使える、消費税の計算を簡素化する制度です。 実際の仕入れにかかった消費税を集計する代わりに、売上にかかる消費税に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けて控除額を計算します。

適用するには、消費税簡易課税制度選択届出書を、その課税期間の初日の前日までに納税地の所轄税務署長へ提出する必要があります。みなし仕入率は事業区分ごとに、次のように定められています。

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事業区分該当する主な事業みなし仕入率
第1種事業卸売業90%
第2種事業小売業など80%
第3種事業建設業・製造業など70%
第4種事業その他の事業60%
第5種事業運輸通信業・サービス業など50%
第6種事業不動産業40%

簡易課税は、実際の仕入れが少ない業種ほど有利になりやすい一方、設備投資などで支払う消費税が多い年には原則課税のほうが有利になることもあります。 どちらが得かは事業の中身で変わるため、納税額を試算して比べるのが確実でしょう。なお、2割特例・簡易課税・原則課税のどれを選ぶかは、売上規模や業種、今後の投資予定によって変わります。判断に迷うときは、税理士に試算を依頼すると安心です。

参考:国税庁「No.6505 簡易課税制度」

課税事業者になる手続きと届出のポイント

課税事業者まわりの手続きでつまずきやすいのが、届出書の提出期限です。 提出が1日でも遅れると、その課税期間は希望した制度を使えず、納税額が変わってしまうことがあります。

主な届出と、提出のタイミングを整理しましょう。

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届出書主な目的提出のタイミングの目安
消費税課税事業者選択届出書免税事業者があえて課税事業者になる適用を受けたい課税期間の初日の前日まで
消費税簡易課税制度選択届出書簡易課税を適用する適用を受けたい課税期間の初日の前日まで
インボイス発行事業者の登録申請適格請求書を発行する登録を受けようとする時期に合わせて申請

あえて課税事業者を選ぶケースとしては、多額の設備投資をして消費税の還付が見込める場合や、取引先からインボイスを求められた場合などが挙げられます。 こうした選択は、選択届出書を期限内に出さなければ希望どおりに適用されません。

良い例は、課税期間が始まる前に「今期から課税事業者になる」「簡易課税にする」と決め、初日の前日までに届出を済ませている事業者でしょう。注意したいのは、決算が近づいてから検討を始め、提出期限を過ぎてしまうケースです。自分の課税期間の初日がいつかを把握し、その前日を提出の締切として逆算しておくと、出し忘れを防げます。届出の様式や最新の取り扱いは、国税庁の案内で確認してください。

なお、新設法人は基準期間がないため、設立1期目・2期目は原則として納税義務が免除されます。ただし、事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上の場合や、特定新規設立法人に該当する場合は、その課税期間は課税事業者になり、納税義務は免除されません。 会社設立時の資本金の決め方が消費税の負担に影響するため、設立前に確認しておきましょう。

参考:国税庁「No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」

課税と免税はどちらが有利か、判断のポイント

免税のままでいるか、あえて課税事業者になるか。これは、取引先の性質と納税負担の大きさを並べて比べると判断できます。 一律に「課税が得」「免税が得」とは言えず、事業の中身で変わるからです。

考え方の軸は、おおむね次のように整理できます。

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状況免税のままでいるあえて課税事業者になる
取引先が課税事業者の企業中心インボイスを出せず取引に影響が出やすいインボイスを出せ、取引を続けやすい
取引先が一般消費者中心インボイスの必要性が低く、納税も発生しない納税負担が増えるだけになりやすい
設備投資で支払う消費税が多い還付を受けられない還付を受けられる可能性がある
売上が小さく事務に手が回らない申告の手間がかからない申告・納付の手間が増える

良い例は、自分の売上の相手と、課税になった場合の納税額(2割特例・簡易課税・原則課税で試算)を書き出してから判断している事業者でしょう。注意したいのは、まわりが登録したからと、取引先の構成や納税額を確認せずに登録してしまうケースです。インボイスを出さないと失う取引と、出すことで増える納税を天秤にかけることが、後悔しない判断につながります。

確認のしかたとしては、まず売上を取引先別に分け、課税事業者の企業向けがどれくらいの割合かを把握します。そのうえで、課税になった場合の納税額を制度別に試算すると、どちらが有利かが見えてきます。判断を誤ると納税額が変わる場面なので、迷うときは無料相談などで専門家に試算を依頼するのも一つの方法です。

参考:国税庁「No.6501 納税義務の免除」

【チェックリスト】自分は課税事業者か、何を届け出るべきか

ここまでの内容は、そのまま自己点検に使えます。まずは領域ごとに、確認すべき観点を整理しましょう。

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領域見るポイント
判定基準期間・特定期間の課税売上高、給与等支払額
登録インボイス発行事業者として登録しているか・する予定か
制度選択2割特例・簡易課税・原則課税のどれを使うか
手続き必要な届出と、その提出期限
損得取引先の構成と、課税になった場合の納税額

次の項目を、自分の事業に当てはめて点検してください。

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領域チェック項目確認
判定基準期間(個人は前々年・法人は前々事業年度)の課税売上高を確認したか
判定特定期間の課税売上高と給与等支払額の両方を確認したか
判定新設法人の場合、資本金が1,000万円以上でないか確認したか
登録取引先にインボイスが必要な相手がどれくらいいるか把握したか
登録インボイス登録すると課税事業者になる点を理解しているか
制度選択2割特例の対象か、適用期間(令和8年9月30日まで)を確認したか
制度選択簡易課税の対象(基準期間の課税売上高5,000万円以下)か確認したか
手続き必要な届出書と、課税期間の初日の前日という期限を把握したか
損得課税になった場合の納税額を制度別に試算したか

チェックの内容は、税理士などへの無料相談で実際に試算してもらうと、より確実になります。 とくに2割特例の終了後にどの制度へ移るかは、納税額が変わる重要な判断です。早めに確認しておきましょう。

参考:国税庁「No.6505 簡易課税制度」

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まとめ

課税事業者とは消費税を納める義務がある事業者で、免税事業者は納税義務が免除されている事業者です。課税事業者になるかどうかは、基準期間や特定期間の課税売上高、インボイス登録の有無で決まります。インボイスを発行できるのは課税事業者だけで、登録すると課税事業者になる点は押さえておきたいところ。納税負担を抑える制度としては、令和8年9月30日までの2割特例や、基準期間の課税売上高5,000万円以下で使える簡易課税があり、2割特例終了後の制度選択(個人事業者向けの3割特例や簡易課税・原則課税)まで見据えて検討しておきたいものです。届出は課税期間の初日の前日までという期限を逃さず、取引先の構成と納税額を比べて、自分に合う立場を選びましょう。

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